■父とはじめて酒を飲んだ【第12話】
今年の3月
高校卒業と大学入学祝いに父と2人きりで初めて酒を飲んだ。
父と対座して酒を酌み交わすってのがなんとも居心地が微妙なもので・・・。
かといって 下戸なのですぐに酔ってしまい、父はカラカラと、これじゃあ酒でまだお前に負けることはないなと笑っていた。
しかしその3日後に緊急入院。
末期の食道癌で家に帰ることなく闘病7ヶ月でこの10月10日に逝った。あの日が最初で最後の父と息子の晩酌だった・・・。
父の遺品を整理していると、ワインが納屋からまだいくつか出てきた。几帳面な父らしく綺麗に生理整頓されていた。
僕は銘柄の良し悪しは良く分からないが、ラベルを見てみると、何か文字がメモしてあった。
「××(僕の名)大学卒業用」
「××就職時用」
「××結婚時用」
瓶を抱いて僕はずっと泣いてしまった・・・。ワインをあける機会を奪った病気を恨んだ。
もっと酒を教えてもらえばよかったと、もっと色々話しすればよかった。
本当に・・・。
■母さんが轢かれた【第13話】
あの日俺が楽しみにとってあったアイスクリームを、母が弟に食べさせてしまった。
学校から帰り、冷凍庫を開け、アイスを探したが見つからなかった。母親に問い詰めると、弟が欲しがったのであげたと言った、
その時楽しみにしていた俺は、すごく怒った
母親に怒鳴り散らし、最後に「死ね!」と叫び、夕食も食べずに部屋に篭もった。
それから何時間か経った。
俺は寝てしまっていたようだ、が、父親が部屋に飛び込んで来たので目が覚めた。
「母さんが轢かれた・・・!」
あの時の父親の顔と言葉を、俺は一生忘れないだろう。俺達が病院に着いたとき、母親はどうしようもない状態だと言われた。
医者は最後に傍にいてあげて下さいと言い、部屋を出た。それから少しして、母親は息を引き取った。
その後、母親があの時間外にいた事を父から聞いた。買い物に行くと言って出て行き、その帰りに車に轢かれた事。
現場のビニール袋の中には、アイスが一つだけ入っていた事。救急車の中でずっとごめんねと呟いていた事。
その時、俺のためにはアイスを買いに行って事故にあったとわかった。
通夜と葬式の間中、俺はずっと泣いた。
そして、今でもこの時期になると自然に涙が出てくることもある。母さん、ごめんな。
俺が最後に死ねなんて言わなかったらと、今でも悔やみ続けている。
■思い出したように「野球、ごめんね」と言った【第14話】
幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに俺を育ててくれた。
学もなく、技術もなかった母は、個人商店の手伝いみたいな仕事で生計を立てていた。
それでも当時住んでいた土地は、まだ人情が残っていたので、何とか母子二人で質素に暮らしていけた。
娯楽をする余裕なんてなく、日曜日は母の手作りの弁当を持って、近所の河原とかに遊びに行っていた。給料をもらった次の日曜日には、クリームパンとコーラを買ってくれた。
ある日、母が勤め先からプロ野球のチケットを2枚もらってきた。俺は生まれて初めてのプロ野球観戦に興奮し、母はいつもより少しだけ豪華な弁当を作ってくれた。
野球場に着き、チケットを見せて入ろうとすると、係員に止められた。母がもらったのは招待券ではなく優待券だった。
チケット売り場で一人1000円ずつ払ってチケットを買わなければいけないと言われ、帰りの電車賃くらいしか持っていなかった俺たちは、外のベンチで弁当を食べて帰った。
電車の中で無言の母に「楽しかったよ」と言ったら、母は「母ちゃん、バカでごめんね」と言って涙を少しこぼした。
俺は母につらい思いをさせた貧乏と無学がとことん嫌になって、一生懸命に勉強した。
新聞奨学生として大学まで進み、いっぱしの社会人になった。結婚もして、母に孫を見せてやることもできた。
そんな母が去年の暮れに亡くなった。死ぬ前に一度だけ目を覚まし、思い出したように「野球、ごめんね」と言った。
俺は「楽しかったよ」と言おうとしたが、最後まで声にならなかった。
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