2016年6月7日火曜日

お話 後編

ヘンゼル「……だけどぼくはまだ、完全に和菓子を認めたわけじゃない!」
グレーテル「ええっ!?」
ヘンゼル「たしかに和菓子の美味しさは分かった……だけど!」

ヘンゼル「和菓子って色が地味だし、見た目って点ではやっぱり洋菓子には敵わない!」
魔女「ひっひっひ、そいつはどうかねえ?」
ヘンゼル「なにっ!」
魔女「こっちに来るといいさ、いいものを見せてあげよう」

ヘンゼル「こ、これは……!?」
グレーテル「すごい!」
ヘンゼル「この落雁……まるで宝石みたいだ!」
グレーテル「こっちの最中(もなか)も、食べるのがもったいないくらいキレイだよ!」
魔女「ほれ、さらにそっちを見てごらん」

ヘンゼル「この鶴……魔女さんが作った彫刻? ーーいや、これは!」
ヘンゼル「これ……お菓子でできてる!」
グレーテル「こっちのお寺もそうだよ、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「お菓子でこんなものが作れるなんて……!」
魔女「ひっひっひ、工芸菓子ってやつさ」
魔女「和菓子の見た目の美しさは、決して洋菓子に引けを取っちゃいないよ」
ヘンゼル「くっ……」

ヘンゼル「ごめん……なさい」
魔女「謝ることはないよ」
ヘンゼル「だけどなぜ、あなたほどの和菓子作りの名人が魔女になったんです?」
魔女「ひっひっひ、いっとくけど私は魔法なんか使えないよ」
ヘンゼル「え……!?」
魔女「元々は私も町でお菓子屋をやっていたんだけどねえ……」
魔女「私の作る和菓子は異端扱いされ、魔女呼ばわりされ、町を追い出されちまったのさ」
魔女「そして……今はここで細々と和菓子研究をする毎日さ」
ヘンゼルとグレーテル「……」

ヘンゼル「あ、あの……」
魔女「なんだい?」
ヘンゼル「もしよろしければ、ぼくに和菓子の作り方を教えてくれませんか?」
グレーテル「あ、あたしもっ!」
魔女「あんたたち……」

魔女「気持ちは嬉しいけど、あんたたちも両親がいるだろう?」
魔女「きっと心配するよ。まさかこんなところまで通うわけにはいかないだろうしねえ」
ヘンゼル「いえ……実はぼくたち……」
グレーテル「お父さんとお母さんに捨てられたの……」
魔女「!」
ヘンゼル「元々は家に帰るつもりで、ここにたどり着いちゃったけど……」
ヘンゼル「もし帰ったとしても、ぼくらの居場所は……」
魔女「そうだったのかい……」

魔女「よし、分かった!」
魔女「だったらこの私が、あんたたちを一人前の和菓子職人にしてやるよ!」
ヘンゼル「ホント!?」
グレーテル「ありがとう!」
魔女「ただし私は厳しいよ! ビシビシいくからね!」
ヘンゼル「はいっ!」
グレーテル「よろしくお願いします、先生!」


ヘンゼル「ぼくの作った餡、どうですか?」
魔女「……」ペロッ
魔女「まだまだだね。こんな餡じゃ、いい和菓子は作れないよ!」
ヘンゼル「は、はいっ!」

魔女「なんだいこりゃ!?」
魔女「皮と餡のバランスが悪すぎる! もっと精進しな!」
グレーテル「すみませんっ!」
グレーテル(個々の味がよくてもダメ……大事なのはバランス……! つまり調和……!)

修行は厳しかったが、二人は魔女の技術を吸収し、和菓子職人としてめきめきと成長していった。

やがてーー
ー城ー
王「ふむ……」モグモグ
王「おおっ! なんとうまい菓子だ! これがくず餅というものなのか!」
ヘンゼル「ありがとうございます」
グレーテル「お褒めにあずかり、光栄ですわ」
王「ぜひ、そなたらには多大なる褒賞を授けたいが……」
ヘンゼル「いえ、褒賞はいりません」
王「ほう?」
グレーテル「その代わり、ある人物の名誉を回復させていただきたいのです」
王「いったいだれの?」
ヘンゼル「ぼくたちの師匠です」

ー町ー
魔女「ひっひっひ……ありがとうねえ」
魔女「おかげで私はまた、町でお菓子屋をやれることになったよ」
魔女「しかも、なにしろ今度は王様のお墨付きだしねえ」
ヘンゼル「よかったですね!」
グレーテル「これでやっとご恩をお返しすることができました!」
魔女「まったく師匠孝行な子たちだよ」
魔女「さて、あとは……」
魔女「立派になったあんたたちの姿を、見せるべき相手に見せるだけだねえ」
ヘンゼルとグレーテル「はいっ!」

……
……
ー自宅ー
父「あの子らを森に置き去りにしてからというもの、毎日夢を見るね……」
母「ええ、森であの子たちが飢えて死んでいく夢を……」
父「こんなことになるのなら……やめておけばよかった……」
母「ええ、口減らしをして私たちはなんとか助かったけど……」
母「こんなことなら、四人で飢え死にするべきだったのかもしれないわ……」
父「おお、ヘンゼルとグレーテルよ、愚かな私たちを許しておくれ……」
「ただいまーっ!」

ヘンゼル「ただいま、父さん!」
グレーテル「ただいま、お母さん!」
父「お、お前たちは……ヘンゼルとグレーテルか!?」
母「生きていたの!?」
ヘンゼル「へへへ、なんとかね」
父「そ、そうか……」
母「よかった……」ウルッ…

父「すまん! 私たちは命にかえても守るべきだったお前たちを……!」
母「私たちにもう、あなたたちの親である資格はないのよ……!」
ヘンゼル「いいんだよ……父さん、母さん、何も気にしないで」
グレーテル「あたしたち、なーんにも気にしてないんだから」
ヘンゼル「そうだ! 今日は二人に和菓子を作ってきたんだ!」
父「和菓子……!?」

母「このういろう……ちょうどいい甘さで本当においしいわ!」モグモグ
父「こっちの草餅も……とてもおいしいよ!」モグモグ
グレーテル「やったね、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「ああ!」
こうして一流の和菓子職人となったヘンゼルとグレーテルは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
ーおわりー
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