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・ほのぼのする話
32 それも名無しだ[]
やっぱさ 物は言い様なんだよなー
俺子供の頃からめちゃくちゃ目つき悪いんだけどさ
養父に引き取って貰う時に、根性のある精悍な顔つきしてる いい男になるって
言われて、よっぽど嬉しかったのかそのまま体育会系まっしぐらだったし
学校の勉強関係なく自分で辞書引いたのも「精悍」が初めてだしな
あと養母も、親戚連中にうちらとは血が繋がってないから、ひょっとして
ノーベル賞とかとる様な事もあるかもしれない
その時はマスコミの取材やらで迷惑かけるかもしれんけどよろしくって
なんかっちゃ言って回ってたって親戚になったジジイ聞いて びっくりしたわ
逆じゃね 普通不良になったり犯罪起こしたりで迷惑かけるかもとは考えるけどさ
よく考えると親戚連中そんなのばっかだわ
畑持ってたジジババなんて、迷惑かけられるかもじゃなくて力仕事手伝ってもらえるかもって
しょっぱなから小遣いやるから夏は家に来い来いってうるさかったわ
負の可能性じゃなくて正の可能性ばっかり口にする連中って
楽観主義っていうんかな 何なんだろうな
でも俺は嬉しかったわ 本当にめちゃくちゃ嬉しかったんだわ
33 それも名無しだ[]
親が子供に与えてあげる貴重な贈り物は自尊心だからな
なかなか大人になってからでは難しい
じいちゃんが郵便将棋をやっていた
「郵便将棋」というものがある。
封筒に次の手を記した紙を入れ、対戦相手に送る。
相手は、その内容に従ってコマを進め、次の自分の手を送り返す、というものを勝敗が決まるまで続けるのだ。
ウチのじいちゃんは、その郵便将棋をやっていた。
郵便将棋で決着が着くのは、相当頻繁にやり取りをしても、5年近くかかるという。
じいちゃんが郵便将棋を始めてから、約3年が経ったころ、相手からの返事が来なくなったと、じいちゃんが困った顔でばあちゃんに相談していた。
俺は「郵便事故かもしれないし、何度か送ってみたら?」と言った。
すると、もう5回は送っているそうで、なにかあったのかと不安の様子。
それから三ヶ月くらいが経ったある日、相手からの返事が来た。
封筒の中には次の手が書いてある紙だけで、「遅れてすまない」といったことは一文も書かれていなかった。
じいちゃんは「相変わらずだな!」と笑っていた。
しかし、郵便将棋が再開してから、なんとたったの半年でじいちゃんは勝ってしまった。
相手の人が、なんだか弱くなった気がすると、じいちゃんもアッサリ勝てたことが納得いかないのか、不思議がっていた。
それから1ヶ月が経ったある日、その相手から一通の手紙がきた。
その内容は
「○○さんゴメンなさい、実は僕は○○じいちゃんの孫で、○○と言います。
○○じいちゃんは去年、心臓病で亡くなりました。
そのとき、ずっと何度も郵便将棋の決着が気になる、もっと生きたいと言っていて、半年くらい将棋を勉強して、僕がかわりに続きをやっていたんです。
弱くてゴメンなさい……」
といったものだった。
ウチのじいちゃんは号泣して、すぐに相手の家と連絡を取って、そのお孫さんと会うようになった。
で、実はその子の家は、おじいちゃんとおばあちゃんと孫の三人暮らしで、おじいさんが死んで、おばあちゃんも先月から入院してしまい、
このままだと児童相談所に預けることになる……という話しをおばあさんから聞き、なんとウチのじいちゃんはその子を養子として迎えちゃいました。
離れの部屋まで建ててあげて、毎日将棋を指しています。
じいちゃんの口癖の「この子は将来、羽生名人を超えるぞぉ!」を聞くたびに、俺はけっこう幸せな気持ちになるのでした。
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