2016年5月4日水曜日

ネタ話 後編

そこには、ちっちゃいおじさんが居た。

緊急の手術を前に、やや緊張の面持ち。
苦しそうではない。

私は、長年で培ったトークで患者さんをリラックスさせながら、剃毛へと いざなう。

「手術って、やっぱり、そんなとこまで剃るんですね・・」
という患者さんに、

「そうですね、やっぱり毛の中にはバイキンが多いので、
 ここから手術のあと感染したり うんたらかんたら〜」
なんて軽快なトークで、なめらかに下着を下ろして、びっくり。

樹海だ。
樹海である。

ちっちゃいおじさんが、猛威をふるっておる。

ごっちんが、無理だって顔をしてる。
ここを剃毛するなんて無理だって顔してる。

大丈夫。私は目で合図した。
ごっちん、見てて。

もし「剃毛病棟24時」ってドラマがあったら、江口は間違いなく私だよ。

私はごっちんに右手を差し出し「ハサミ」と言った。
ごっちんは、すばやく、私にハサミを差し出した。

「完璧・・ですね」
ごっちんが憧れの眼差しで私を見た。

たった10分。
ノルウエイの森が、更地に。

そしたら、ナイスタイミングで、先輩とドクターが病室に来たので。

私は先輩に子犬のように駆け寄って
「剃毛したんで、確認してください」
って微笑んだ。

見て見て。
私の武勇伝。

先輩が、オーケーオーケーと、微笑んで患者さんを見た。
下半身を見た。
そして叫んだ。


「頭の手術よ————————!!」


この叫びをね、私は生涯忘れないと思います。
先輩、大西ライオンかと思った。

で、一同絶句。

患者さんも、私も、ごっちんも、先輩も、ドクターも。

ただ、病室の時計のカチカチカチカチって音だけが響いてた。

ご、ご覧のとおり、頭ボウボウなわけです。
で、でも、下はつるっつるなわけです。

「なんで・・こんなことに・・」ってドクター。

完っ全っに、剃る場所を間違ってるわけです、私。

本丸を手つかずにして、
とんでもないとこを、思う存分剃りあげたわけです、私。
逃げも隠れもいたしません。はい。

患者さんも、「だよね」って言ってた。
「頭の手術なのに、すごいとこまで剃るなーって、
 やっぱグローバルなんだなーって」とのこと。

グローバル間違え。

剃毛っていったら、下しかないと思ってた。

それから無事、頭の手術を終えた患者さんに、
もう、師長も主任も連なって、謝って、

患者さんの家族にも
「上の毛と下の毛を間違って剃ってしまいました」
と謝って、

最終的には、院長まで出てきて、
「上の毛と下の毛を間違って剃ってしまいました。
 患者さんの苦痛を考えると・・・」
って謝って、

最終的に、私は
「上の毛と下の毛を間違って剃ってしまいました」
というミス・トラブル報告書を書いた。

さまざまな角度から、上の毛と下の毛を剃り間違える過程を分析した、その壮大な書は、

救急病棟の報告書の決まりにのっとり、
朝の申し送りで1週間読みあげられました。とっくりと。

で、こころなしか、最近、先輩たちから、微笑まれる回数が増えたよ。
あと、色んな人に「アレ読んだよ」って言われる。
まさにベストセラー。

あと、もう、私の念願だったわけですが・・うん・・、
先輩たちもドクターもね、口々に言うわけです、

「救急病棟に、加藤ありき!」と。
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