2015年4月5日日曜日

ネタ話

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俺たちの秘密基地にSが作りたかったもの
2015/04/04
カテゴリー: いい話
http://omoshiroi-hanashi.com/ii/12608.html
191:前編 メール:2005/07/24(日) 17:38:14
幼い頃、近所の原っぱに作った秘密基地が俺達のたまり場だった。
拾ってきたトタン板や木工所から捨てられた木材などを寄せ集めて作った掘っ立て小屋。
今にして思えば犬小屋以下の造形だったが、それでも俺達にとっては
かけがえのない楽しい場所だった。

秘密基地に集まるメンバーの中にSと言う男がいた。
Sは手先が器用で、実は秘密基地建設も大半がSの手によるものだった。

ある日、秘密基地に行ってみると先に来ていたSが一心不乱に工具をふるって
基地にさらなる増設をしていた。
その日は皆で釣りに行く予定だったがSの「これができたらぜってぇー楽しいぞ。」との言葉に
釣り道具を放り出して増設の手伝いをした。
結局、その日は完成を見ることなく夜を迎え、続きはまた明日となり
皆は完成を楽しみにしながら帰路についたのだった。

翌日、いつもの原っぱに行ってみると、そこはすっかり様変わりしていた。
伸び放題だった草は刈り取られ、何台ものトラックが乗り入れていた。
そして俺達のゴミのような秘密基地は解体され、まさにゴミとして隅にうち捨てられていた。

近所の顔見知りのおっちゃんに聞くと、原っぱは駐車場になるのだという。
話を聞いたSの悔しそうで泣きそうな顔が印象的だった。
俺達の楽しい時間は唐突に終わりを告げた。

それから何日かは、次第に変わっていく元原っぱを見に来ては
言い表せない思いと共に歯噛みをしていたものだったが、次第に足も遠のき
中学入学と共にかつての仲間とも疎遠になり、秘密基地のことは記憶から薄れていった。
192:中編 メール:2005/07/24(日) 17:41:57
記憶の底に沈んでいた基地のことが突然浮かび上がってきたのは
一人の男との再会からだった。

小学校卒業から20年を祝した同窓会で「久しぶり〜」と声を掛けてきたのは
幼い頃の面影に髭を蓄えたSその人だった。
建築デザイナーとして日本各地を飛び回っているSは
忙しいスケジュールを無理矢理空け、なんとしてもこの日この場に来たかったのだという。

「なんだ、せっかく来たのにあいつらいないのか・・・。」 そう残念そうに漏らすS。
何故ならそのメンバーの中で同窓会に来れたのは俺とSだけだったのだ。
三十路を過ぎると同窓会よりも今の仕事を優先する奴がいるのも無理はなかった。
「あの頃のメンバーに見せたいものがあったんだがなぁ・・・。」
そう呟くSの言葉に俺は久方ぶりに子供じみた好奇心を疼かせた。

そんな俺の様子に、Sはあの頃の悪ガキの顔でニヤッと笑ってみせた。
S「ウチこねぇ?」 俺「おう、行く行く」
まるで小学生に戻ったようなやりとりで俺はSの家に招待された。
193:後編 メール:2005/07/24(日) 17:43:05
Sの家は白亜の豪邸、とまでは行かないが、少なくとも俺の安月給では
この先十数年は縁がないだろうと思わせる代物だった。
Sの稼ぎっぷりを窺わせる様々な豪華な内装に気圧されながら通されたSの部屋。
扉を開けると、そこにはうって変わって懐かしい光景が広がっていた。

部屋の奥に机、壁を埋め尽くす本棚、そして散らかり放題の床。
部屋の広さや散らかっているものが漫画や玩具から設計図やデザイン画に変わってはいるものの
そこはまさに小学生時代のSの部屋そのものだった。

秘密基地を奪われてからは、専らのたまり場は漫画だらけのSの部屋になり
日が暮れるまでダラダラと過ごしていた当時の光景が頭をよぎった。

「別にこんな汚い部屋を見せたかったわけじゃないぞ。」
すっかり回想モードに入っていた俺をSの言葉が引き戻す。
Sは唯一本棚の無い壁の前に立つと「ホントに見せたかったのは・・・コレだ!」
ドンッと壁を押すS。 すると壁はクルリと回り口を開け
その奥に四畳半ほどの小さな部屋が現れた。

Sは子供のようにニコニコ笑いながら「俺の秘密基地だ。」と胸を張った。
呆気にとられる俺を尻目にSはどんでん返しの扉を自慢げにクルクルと回してみせ
昔を懐かしむ顔で「あの時、コイツを基地に作りたかったんだ。」

いつの日か自分の手でもう一度どんでん返し付きの秘密基地を作る。
その思いが彼を建築デザイナーの道に進め、そして20年強の歳月の果て
自宅建築の際、遂にそれを成し遂げたのだとS自身が誇らしげに語った。
もはや執念と言うべきその思いに、俺は感嘆し、呆れ、そして爆笑した。

その夜、Sの執念の賜物の秘密基地の中で当時を思い出しながら彼と酒を酌み交わした。
「今度は絶対に当時のメンバー全員集めて飲もう!」
そう硬く誓い合った二人だけの酒宴は尽きることのない昔話と共に
いつまでも続いたのだった。
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