2015年4月2日木曜日

恐い話

佐野さんは大の
カラオケ嫌いだ。

飲み会の流れで「カラオケ」
という単語が出るだけで
コッソリ姿を消すという。
「高校の時までは
 行ったんですよ。
 わーわー皆で歌うのが
 楽しかった。
 ブルーハーツとスマップ
 とか歌ってましたよ」

その時は『うまく歌うこと』
は置いておき、
好きに歌っていたという。
「大学入って……
 まぁよく知らない奴らと
 遊ぶことになるわけ
 じゃないですか。
 みんなカラオケのレベル
 高かったんですよね。
 これは負けてらんない
 なぁって思って」
授業の合間を見つけては
一人カラオケに
通い始めたという。
平日の昼間は人もおらず
一人でもさほど
恥ずかしくなかった。
「じっくり歌えるから練習に
 なるんですよ。
 待ち時間もないし
 煙草くさくもないしで
 快適なんです」

練習の成果もあり、
カラオケの採点機能で
ほぼ高得点を
出せるようになった頃だ。
いつものように佐野さんは
アイスティーを用意し、
マイクを握った。

歌い始めは好調だった。
高い音も難なく出るし、
ビブラートもうまくかかる。
三曲目を歌い始めた時、
自分の声が異様に
低く聞こえる気がした。

キーをいじながら
歌は続けたという。
サビに近づいた頃、
笑い声が混じりはじめた。
(入り口窓から知り合いが笑って いるんじゃないか……)

そう思いドアを開けて
確認したが誰もいない。

ドアを閉めて再び歌いだすと
はっきり変わった。

自分の声じゃない、
野太い笑い声が
スピーカーから
狂ったように響いたという。

ケタケタケタ……。
背筋がぞっとしたという。
カラオケ機の故障かと
佐野さんが機械を見ると、
異様な歌詞が映像に
流れていた。

穢多穢多穢多穢多
穢多
穢多
穢多
穢多穢多

カラオケボックスの隅に、
体育座りをした髪の
長い女が目に入った。
長髪の隙間から覗く、
ほら穴のような瞳が
佐野さんを見つめていた。
真っ赤に裂けた唇はまるで
肉を咀嚼するかのように
動いていた。
それが歌っていると
わかった途端、
佐野さんは
カラオケボックスから
飛び出した。

受付で店員を目にした途端、
失神したという。

それ以来カラオケ屋には
二度と行こうとしない。

「一回どうしても断れない
 状況があったんで
 行ったんです。
 十人くらいで」

したたかに
酔っていたせいもある。

皆でケツメイシを
合唱していた時、
佐野さんの目に風船のように
顔が膨らんだ女が移った。
どす黒い紫色から
舌がだらぁんと伸びていた。
その女はカラオケ機の横で
楽しそうにリズムを
とっていたという。

「コンビニに行くって
 嘘ついて逃げました。
 もう何があっても
 カラオケには行きません」

カラオケ嫌いな人を、
無理に誘っては
いけないようだ。


上田さんは酒癖が悪い。
泥酔したあげく学生集団に
ケンカを売ったり、
ナンパとすら呼べない
女性への声かけなど
日常茶飯事だ。

二度ほどうんざりした
記憶があるので、
私は上田さんと飲むときは
早々に帰ることに決めている。

そんな上田さんが毎度
同じように前後不覚に
なるまで新宿ゴールデン街で
飲み明かした時のことだ。
目が覚めるとまだ夜明け前。
窓から入る明かりを頼りに、
沸きあがる尿意を
解消しようと手洗いへと
起き上がったそうだ。
ここがどこか、
どうしてここにいるのか。

そんな疑問は『慣れ』の
せいかさほど頭にない。
服は脱いでいなかった。
手を伸ばしても
女のぬくもりはない。

仲良くなった誰かの家に
泊まったか
そう判断した上田さんは
目を凝らし、
トイレの場所を探した。
人はいなかった。
裸の女の代わりに、
隣には屍体が転がっていた。
「え?」
スーっと酔いが冷めた。
屍体の膿み膨れた頭は
紫・薄紫、濃い青と
グラデーションに
染まっていた。

顔が小刻みに揺れており、
上田さんはさらに目を
凝らした。

あるべき顔の材料はなかった。
あるはずの場所には
蛆らが住居を作っていた。
蛆と蝿がたぎるように
湧いていた。

強烈な腐臭が今更ながら
上田さんの顔にかかる。
ベッドの上だったが構わず
吐いていると、
屍体は起き上がった。
蛆がぽろぽろと零れた。

「いこかね」
まるで十数年来の
親友かのように、
屍体は優しく呟いたという。

上田さんがふるふると
首を振ると、
屍体は崩れ落ちそうな
腕を伸ばした。
首を掴まれた瞬間、
ひやっとした感触を
味わうと同時に上田さんは
意識を失った。

起きたら新宿東口の
花壇でした

首に手を触れると、
土のような皮膚が
ぼろぼろ落ちたという。
それが自分のものか、
誰かのものなのかは
分からない。

以来、泥酔するほど
飲むときは新宿を避けると
上田さんは苦笑する。
相互募集中
  @広告@
最新号取り寄せアドレス:
00592655.bn@b.merumo.ne.jp

ん!?なんか用?
00592655k@merumo.ne.jp

この号が気に入ったら押して下さい
☆ぽちっとな
http://merumo.ne.jp/like/00592655/b4918/?guid=ON


[メルモPR]
メルモでメルマガ発行しよう!
http://merumo.ne.jp/

バックナンバー
http://bn.merumo.ne.jp/list/00592655

配信元:メルモ byGMO
http://merumo.ne.jp/

スマートフォンの方はこちらから登録端末変更をしてください。
http://cgi.merumo.ne.jp/reader/subsc_change.do

0 件のコメント:

コメントを投稿