2016年3月6日日曜日

ネタ話 中編

ボールペン「夏休みの直前の7月」

ボールペン「私は頻繁に筆箱から取り出されるようになりました」

ボールペン「筆箱の隙間から見ていましたが、」

ボールペン「ご主人様には好きな女の子が出来たんです」

ボールペン「相手は、席替えで隣になってから教科書をよく見せてくれた子です」

俺の緑ボールペンはくだらないことをメモする落書き専用だよ

ボールペン「告白しようと思いましたが、なかなか言葉にすることが出来ず、」

ボールペン「手紙で想いを伝えようとして、私を手に取ってくれました」
ボールペン「今回は、赤ペンさんや青ペンさんの代わりじゃなく」

ボールペン「私を緑ペンそのものとして使ってくれました」

ボールペン「それだけで、私は十分すぎるほどに嬉しい気持ちだったんです」

確実に使う色のペンしか買わないわ…

俺は緑も使ってるよ………

ボールペン「"シャーペンだと味気ないし、」

ボールペン「赤ペンだととげとげしい。」

ボールペン「青ペンだと冷たく見えるけど、」

ボールペン「緑だったらやわらかい感じがするから"」

ボールペン「少し不器用なご主人様は、他に色を付けようとせず、」

ボールペン「何度も何度も私だけを使って手紙を書いてくれましたね」

ボールペン「鉛筆で下書きしてもいいのに、」

ボールペン「練習の時からいきなり緑ペンなんてびっくりしましたけど、」

ボールペン「一生懸命なご主人様のためなら、いくらでも頑張れました」

ボールペン「試行錯誤を重ねてようやく手紙が書きあがった頃には」

ボールペン「これまでのペースで2か月分ほどの量のインクが減っていました」

ボールペン「気が付くと、キャップにも私の緑のインクの染みがついていました」

ボールペン「ずっと憧れてたこの汚れや減り具合」

ボールペン「ちょっと疲れたけど、とても清々しかったのを覚えています」

ボールペン「放課後、その手紙を渡して隣の席の子に告白し」

ボールペン「めでたくお二人が付き合うことになった日の夜」

ボールペン「赤ペンさん、青ペンさんたちには」

ボールペン「"先輩、さすがっすね〜!"って褒められて」

ボールペン「壁に掛けられた制服の胸ポケットから、わざわざ黒ペンさんが"おめでとう!"って言ってくれました」

ボールペン「恥ずかしかったけど、とても嬉しくてたまりませんでしたよ」

ボールペン「ご主人様のキューピッドになれたような気がしてね」

ボールペン「それから毎日が変わりました」

ボールペン「彼女さんへのプレゼントに添えるバースデーメッセージや」

ボールペン「クリスマス、ホワイトデーなどのお手紙で」

ボールペン「私の出番がどんどん来るようになりました」

ボールペン「お二人にとって大事なライフイベントで、」

ボールペン「こんなにご主人様に必要にされるとは1年前の自分からでは想像できませんでした」

ボールペン「そして相変わらず練習一発目から本番の勢いで緑ペンを使うご主人様」

ボールペン「大抵失敗するのに、何度も何度も私を使って一生懸命書いてくれました」

ボールペン「クリスマスプレゼント、ホワイトデーのプレゼントに添えた手紙で」

ボールペン「彼女さんが喜んでくれると、私もとっても嬉しかったんです」


ボールペン「でも私にも、とうとうその時が来てしまいました」

ボールペン「字が、書けなくなってきたんです」

ついに…

俺は普段から緑使ってるからな!!
ボールペン「インクがかすれるようになって、」

ボールペン「せっかくのお手紙がところどころかすれてしまいます」

ボールペン「ガリガリこすれるような、削れるような感触が、」

ボールペン「そのままご主人様に伝わって、眉が逆ハの字になるご主人様」

ボールペン「こんなところで書けなくなったら」

ボールペン「ご主人様の大事なお手紙が台無しになってしまう」

ボールペン「それだけはなんとしても避けたいと思いました」

ボールペン「ティッシュにこすりつけたりペン先を温めるうちに」

ボールペン「インクが柔らかくなって少しずつ力が出るようになってきました」

ボールペン「しかし、書き進めるうち、何度も文字がかすれて」

ボールペン「そのたびご主人様はペン先に息を吐きかけます」

全俺が泣いた

ボールペン「この手紙は、いつもとは違う手紙」

ボールペン「1年前に同じように手紙を書いて付き合うことになってから1周年記念の手紙」

ボールペン「ご主人様は私のインクの量を見て、残りがもう少ないことを感じ、」

ボールペン「いつもやる下書きを飛ばして頭の中で整理した言葉を全力で綺麗に書こうとしてくれます」

ボールペン「せめてそのお気持ちに応えたい。」

ボールペン「1周年記念のこの手紙に、ご主人様が一番伝えたい言葉を敷き詰められるように。」

ボールペン「残り僅かな力を絞って」

ボールペン「ご主人様の思いを果たしたいと思いました」

ボールペン「書き始めて1時間が過ぎた頃」

ボールペン「ご主人様の心のこもった手紙が出来上がりました」

ボールペン「かすれるのを必死にこらえ、」

ボールペン「なんとか最後の一文字までつなげることが出来ました」

ボールペン「でも・・・」

ボールペン「私に残された力は、もうありませんでした」

ボールペン「今まで筆箱の中から数々の別れを見てきました」

ボールペン「私もきっとゴミ箱に適当に投げ捨てられるのかと思いました」

ボールペン「でもご主人様は、」

ボールペン「先に行ったみんなみたいに投げ捨てるようなことはせず、」

ボールペン「私を惜しみながらゴミ箱にそっと入れました」
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