2014年12月15日月曜日

泣ける話短編集

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■美人で気丈なママが私の膝の上で泣いた【第3話】

私の父と母は、昔から仲が悪かった。喧嘩する仲というよりも、冷え切っていた。それは小学生だった頃の私にもわかる程だった。

気付いたら父が別居していたりと、どちらかというと母と一緒にいた記憶のほうが多い。

強くて美しい母は、私には冷たかった。理由は未だにわからない。母が夜に遊びに出掛けるのを、私が泣いて嫌がると、重いソファーに潰して出掛けたり学校の帰りが少しでも遅くなると、遠くから走って家に入ろうとする私を、母は玄関から冷たい目で睨み、玄関の鍵を締めたり、とにかく、嫌われていた。

そして私は、どんどん壁を作った。傷つかないように。大好きなママに、これ以上嫌われないように。

私が中学生になった時には、既に完全に別居となっていて、父と会う事はほぼなくなっていた。

兄はグレてしまい、高校を中退し家を出ていってしまった。冷え切った関係のまま、母と私の二人暮しで数年過ごした。

中学三年の半ばのある日、ママは夜遊びをせず家にいた。嫌な予感がした。ご飯を食べ終わった後、ママは言った「ママ、離婚して東京に行くから」

美人で、気丈なママが、私の膝の上で泣いた。初めて泣いた。

壁が出来上がっていた私には、無表情で「そう」「うん」としか言えなかった。でも、そんなママの姿を見て私の涙は止まらなかった。

ママは私を嫌っているのに、なぜ泣く?

私が高校に上がったら出ていく、とママは宣言した。ママとの二人暮しも、高校に上がったら終わり。

それからのママは、壁はあるものの優しかった。高校の入学式の朝、ママは数年ぶりに「おはよう」と言ってくれた。

気恥ずかしいせいか、笑顔ではなかった。でもママなりに頑張ったんだと思う。部屋の中の片隅には、ママの荷物がまとまっていた。

洗濯や掃除も、すべて片付いていた。
「○○が家に帰ってきたら、ママいないからね」と念を押した。

泣かない。絶対に泣かない。

そして、私は玄関を出た。薄いカーテン越しに、私を見ているのがわかった。

どんな気持ちで見ているのかはわからなかった。

入学式が終わると、走って家に帰った
もちろんママは、いなかった
大好きなママ、ひとりぼっちの家、ひとりぼっちの高校生活、手料理の味
涙が、止まらなかった。


■俺たち家族【第4話】
−俺と弟、おやじ−
これが俺の物心ついた頃からの家族だった。

かあちゃんがいない理由は小学生の時になんとなく。かあちゃんの親がおやじに額を畳にこすりつけるような詫びをしにやってきたのは知っているがそれ以上は知らない。

ていうかどうでもよかった。トラック乗りのおやじもいつ家に帰ってくるのかわからん男だったから、いない時はじっちゃんのアパートに、いる時は3人で家に、という具合だ。

じっちゃんとこと違うのは、うちの方が雨漏りがたまにするくらい。

大した違いはない。
「兄弟一致団結して」というのは嘘八百。喧嘩は絶えず。おやじがいてもいなくても関係なく、殺伐とした兄弟だったように思う。

そんなある日、おやじが土日2日間休みが取れたからと言う。そしておもちゃ屋につれてってやると言う。

おもちゃ屋かよ、別に欲しい物なんてねーよ、と思ったが口には出さない。弟も弟で、興味ない様子。果たして休日を有意義に過ごせるのだろうか?

日頃薄汚いおやじが朝から床屋に行った。俺と弟はじっちゃんの家に前もって用意してもらった新しい服を取りに行った。

3人が合流したのは10時30分。こぎれいな3人に汚い黄色の軽自動車で向った。到着。とりあえず昼を食って弟と距離を保って歩いていると後ろを歩いていたおやじがいない。

「いねーじゃねーか、おやじが迷子になるなよな」「そうだな」
弟と意見が合った。

探していると、見つかった。ボードゲームのコーナーにいる。しゃがみこんで何かを手にしている。
「将棋セット」

駒と折りたたみの板のセットだ。将棋? なんで将棋なんだよ、と思った俺。

とりあえず、俺はその後学校で知ってるやつに聞いてメモして家に帰った。弟はとっくに将棋のことなんか忘れてテレビを見ている。

嫌がる弟に強制的にルールを覚えさせ、ひとまずやってみた。3分で終わった。勝負がついたからではない。つまらんくなって弟が駒を投げたからだ。

その日から将棋セットは押し入れの奥へ行った。

今日は喪主である俺がいろいろと動いた。
身内もほとんどいない俺たち家族だが、盛大に行いたいとの俺たち兄弟の考えで、おやじにとって満足できる出来映えだっただろう。

弟は仕事先の海外から家族と共に、俺は離婚した1ヶ月後にその日を迎えた。おやじは体を壊したのが3年前、寝たきりになっってしまったのが半年程前だ。

痴呆?みたいなものにもなっていた"らしい"。苦しまずに逝けたのが幸せか。
棺を前にして俺と弟は話しをした。
「あの時のこと覚えてるか?将棋セット」
「覚えてる。おやじ、嬉しそうだったな。」
急に俺は、探して見たくなって押し入れを探した。すぐ見つかった。

弟と一緒に箱から開けてちょっとやってみようかという話しになった。駒を並べ終え、始まって10分ほどした時、ヘルパーのE子さんが立ち止まったままこちらを見ていたのに気がついた。

E子さんにはおやじのことで本当に世話になった人だ。
「あ、どうかなさったんですか?」俺は聞いた。
「お父さま、今年の初め頃でしたかしら、その駒を握って涙を流しながら、仲良うしろよ、仲良うしろよ、とおっしゃっていたもので・・・」
みるみるうちにE子さんの顔が紅潮している。

目の前の弟は下を向いたまま動かない。俺は、箱の中に入っていたおやじが自分で鉛筆で書いた駒の動き方のメモを見ながら泣いた。
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