あの邪鬼が持つ鎌、
それは死神を意味するものかもしれない。
私の周囲に不吉なこと不運なことが生じると、
黒い影の存在を感じることもあった。
何者かに見張られている。
私の心の奥底まで見通し、
虎視眈々と私を付け狙っている黒い影の存在。
少しでも隙を見せるとたちどころに心を蹂躙しようと。
その黒い影は、時として生きてる人間に憑依し、
残忍冷酷な人間に豹変させ、私をいたぶろうとしている。
そんな疑心暗鬼にもなった。
自分以外の人間が信用できない。
いつ自分に害をなす人間となるか分からないからだ。
必要以上の緊張感を強いられ、
子供でありながら大人並みの緊張感を要求されたのだ。
自分の半生を振り返ると、
強引かつ理不尽な不幸現象に見舞われてきた。
物事が自分の意に染まぬ方向へ、
そうあって欲しくないと思う方向へ、
必ずと言って良いほど運命が動く。
それは私の精神が疲弊し崩壊するのを
目的としているかのようだった。
あきらかに何者かの意志が働いているとしか思えない。
夢に見た邪鬼が、黒い影となり私の廻りを徘徊し、
人を介して間接攻撃に始まり、私が注意力が散漫になると、
それを見計らって直接攻撃に及ぶ。
精神を締め付ける喩えようもない閉塞感に襲われるのだ。
その意識圧からは悪意すら読みとれることもあった。
時おり、自分が旧約聖書に登場する
ヨブのように思えることもある。
幾重にも重なった夢の世界。
恐怖の中に恐怖が織り込まれ、
それが恐怖の多重世界を形成する。
それは合わせ鏡の世界に似ていた。
鏡の世界にもう一つの世界。
その中にもまた鏡の世界。
それが無限に続いている。
私が見た悪夢は、まさにそれだった。
そして、言い伝え通り、
合わせ鏡から悪魔を呼び出してしまったのか?
それが、あの邪鬼とも妖怪ともつかない奴なのか。
私は時々思う、
今現実と思っているこの世界が、
実は夢の続きではないのか、と。
私は未だ覚めやらぬ多重構造の夢から抜け出せず、
そこで囚われの身になっているんじゃないのか。
邯鄲の夢の言葉もあるように、
ふと目覚めると5歳児の私のままではないのか・・・と。
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