2013年9月29日日曜日

恐い話 前編

中学の自習時間に先生がしてくれた実体験談?です。
先生から聞いただけの話だけど、臨場感を出すため語り手を先生(俺)として書きました


十年くらい前、俺がまだ大学生だった時の話。
同じサークルでよくつるんでた友達が二人いた。名前はKとH。
俺とHは学生寮に住んでいて、Kだけが安アパートで独り暮らしだった。
どいつも親は別に金持ちじゃないから、仕送りも衣食住でかつかつ程度だったし
大学は最後の自由時間って感じで、講義もそこそこにバイトしては遊ぶ毎日だったよ。
彼女もいない野郎三人。
つるんでゲーセンやカラオケ行ったり、独り暮らしのKの家で夜通しゲームしたり、
今思えば、受験戦争から解放されて精神年齢が逆戻りしたようなアホな大学生活だった。

そんなある日、いつものように三人で馬鹿話してると
Kが「最近おもしろい夢を見る」と言い出した。
連続する夢、夢の続きをまた夢で見るのだと言う。
それも毎晩見るのではなく、数日あいてまた同じような夢を見るらしい。
俺とHがどんな夢かたずねると、Kは「自転車に乗っている夢」と答えた。
自転車に乗って走ってる夢で、夢の中のKは「どこか」に行かないといけないと思っていて
その「どこか」を探しているらしい。

ストーリー性のある夢かと思ってたから、正直つまらねー話だと思ったよ。
それのどこがおもしろいのか、たずねたら
Kは「ペダルを踏む感覚や景色がすごいリアルで、夢と思えない夢だ」と興奮していた。


それからなんとなく、Kに会ったら夢の話を聞くのが俺とHの日課になった。
どっちか片方が聞いたらもう片方にも伝える。それでKに会ったらもう一度直接聞いたりして、
なんだかんだでKの夢の内容は、三人で共有する形になっていた。
「昨夜は残念ながら見なかったな」とか
「昨夜は海辺を走った」とか「薄暗くて山道みたいだった」とか
Kの夢に共通してるのは、それがK本人の行動として描かれることと、必ず自転車に乗っていることだった。
俺たちはおもしろがって、Kの夢をあれこれ診断しようとしたりした。
占いや精神分析とかを本で調べてみたり、Kの過去や思い出を聞いてみたり。
夢が現実にある場所かもしれないとKに心当たりがないか尋ねてみたが、
景色を「リアルだ」と思うのはあくまで夢の中のKであって、
目覚めた時に夢の景色をリアルに記憶しているわけじゃない、ということだった。
「実体験のような夢」を見てるだけで、目が覚めれば「夢は所詮夢」ってことらしい。


Kの夢に異変が起きたのは、Kから夢の話を聞くようになって一ヶ月近く経ってからだった。
奴はその頃、街中を走る夢を何度か見ていて、最初に聞いた時はその延長だと思ったよ。

K「昨夜は線路の横を走った」
H「昨夜も?」
K「そう、昨夜も。二夜連続!」
俺「すげえ!連夜は初めてだな」

Kは二晩続けて「線路の横を走る」夢を見ていた。
街中を横断する線路で、上下二本の線路の両側は細い道路を挟んで住宅地になっているらしい。
その線路横の細い道路を自転車で走る夢だった。
二晩の夢の線路は続いていて、Kは線路伝いに「どこか」へ向かっている途中だと言う。
その時のKは「ようやく目的地が見えてきた気がする」と、現実の話でもないのにやけに張り切っていた。

それから一週間くらい、俺は課題だバイトだと忙しくてKともHとも話す機会がなかった。

大学で久しぶりにHに会ったら、Kの様子がおかしいと言う。
講義を欠席してサークルにも来なくなり、電話で遊びに誘っても生返事。
新しい夢について尋ねても「うーん、まぁそれなりに」としか言わなかったらしい。

後で考えると本当に直感だったんだが、俺はHからKのことを聞いたその時、ものすごく嫌な予感がした。


「とにかくKに会おう」ということになり、電話して居場所を尋ねたら友達の家にいると言う。
外出したくないと言うKを説得して、Kの居場所から一番近かったファミレスに呼び出した。
俺とHは先にそこへ行ってKが来るのを待ってたんだけど、店に入ってきた奴を見て
俺は自分の直感が正しかったことがわかった。

Kは異様なくらいやつれていた。
目の下にすごい隈を作って痩せて、ろくに寝ても食べてもいないようだった。

俺とHはしぶるKを一生懸命説得して、この一週間に何があったのか話すようにうながした。
Kは前置きに「お前らに話をすると本当になりそうで怖い」と何度も繰り返しながら、
ぽつぽつと話した。それはやっぱり、例の夢の話だった。

Kが二晩続けて線路横を走る夢を見た後のこと。
二日間は夢を見なかったらしい。
ところが次の日から、夢は毎晩やってきてKの睡眠を脅かした。

 その日。自転車で線路横を走る。前方には踏み切りが見えてくる。

 次の日。踏み切り前で電車が通り過ぎるのを待っている。自転車にまたがって、一番前で。

 次の日。自転車で踏み切りを渡る。何度も何度も繰り返し渡る。

 次の日。どこかの路地で自転車を降りて、踏み切りへ歩いていく。

 次の日。踏み切りを歩いて渡る途中、線路の真ん中で立ち止まる。

 次の日。線路の上を歩いている。踏み切りを後にして。線路をまっすぐ。


夢が進むにつれて、Kにはこの夢が何を意味するのかわかったのだろう。
夢のことを知る俺とHには相談できなかったと語った。口に出せば、正夢になりそうだったから。

Kは眠るのが怖くなった。場所を変えれば夢を見ないかもしれない。アパートを出て友達の家に転がり込んだ。
しかし、夢は毎日容赦なくやってきた。ほんのちょっとのうたた寝の隙にも。
昼夜問わず一日一回必ず。正確にリアルに・・・

「俺は自殺の夢を見ている!」

Kは真っ青になって震えていた。
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