2016年4月9日土曜日

恐い話前編

大学の帰り、犬と散歩中の「つんつるてん」に出会った
2016/01/21
カテゴリー: 怖い話

犬の散歩は、大変だと思う。早朝や夜遅くに散歩している人をよく見かける。
そのたびに、ついそんなことを考える。日中は仕事や学校だから、そういう時間帯になってしまうのだとは思うが・・・。

おれも小さいころ、実家で犬を飼っていたが、追いかけられた記憶しかない。本人はじゃれていたつもりだったのだろうが、おれにはそれが恐怖だった。
そして中学に上がり、犬にも慣れ始めたころ、飼っていた犬は病死してしまった。

おれの通っている大学は、下宿先から自転車で15分くらいのところにある。
いつも近道である川沿いの道を通る。その日も、実習が長引いて遅くなってしまった。

いつものように川沿いを自転車でこぐ。川沿いの道は、車両が一台やっと通れるくらいの広さ。両岸とも自転車を除いて一方通行となっている。川といっても上水路といった感じで、幅はせいぜい10Mくらいしかない。
おれは冬の寒さにこごえながら、家路を急いだ。

橋にさしかかったとき、人影がみえた。こちらに背を向けてじっと立っている。
犬の散歩中らしく、手づなを引いて、犬が用を足し終えるのを待っている。
「こんな寒い中、大変だな」と思った。

ふと見ると、その人ズボンの丈が合っていない。スネが丸見えで寒そうだ。紺のダウンジャケットを着て、ファー付きのフードを頭まで被っている。
その人の横を通り過ぎたときだった。
「わん。」
827:本当にあった怖い名無し:2007/03/29(木)14:06:41ID:mgI6Vee80
犬の声とも、人の声ともとれないような声。むしろ音だったのかもしれない。
少し驚いて、おれは振り向いた。

穴だった。黒い穴が三つ。そいつの顔であろう場所にぽっかりあいている。穴のような目と、穴のような口・・・。背筋に悪寒が走った。
猛スピードで自転車をこいだ。川沿いをひたすら走り、一つの橋を超え、二つ目の橋を超え・・・何か嫌な予感がした。

振り返ると、追いかけてきている。距離は遠のいたが、そのまま夢中でペダルをこいだ。アパートに着くころには、そいつはいなくなっていた。

次の日、大学の友人に昨晩の出来事を話した。
「そりゃあお前、つんつるてんだよ。」
「つんつるてん?」
妖怪のたぐいかと思ったが、どうも違うらしい。友人が言うには、ズボンの丈が合わずにスネが丸見えのことを、つんつるてんというらしい。単なる見間違いだ、と軽くあし らわれた。

その次の夜だった。そいつはまた現れた。実習で遅くなり、川沿いを帰っていたとき・・・そいつは同じ場所、同じ格好で立っていた。ズボンの丈が合っていない・・・
「わん」
そいつから逃げるために、思い切りペダルをこいだ。幸いヤツはぼくの自転車についてこれない。
「わん。わん。わん。」
犬のような、人のような。低い男の声。逃げ切るまで止むことはなかった。
828:本当にあった怖い名無し:2007/03/29(木)14:08:44ID:mgI6Vee80
そんなことがあってからというもの、おれは川沿いの道を通らなくなった。
ある日、前に話した友人といっしょに帰ることになった。彼も同じアパートで、帰る方向は同じである。

「近道を通ろう」と言い出し、イヤイヤ川沿いの道を行く羽目になった。
「ここの道、あいつが出るから嫌なんだよ。」
「ああ、例のつんつるてんか。何かされたのか?」
「いや・・・追いかけられただけだけど」
友人が居たせいなのか、一人でないと現れないのか、あいつは姿を現すことはなかった。
830:本当にあった怖い名無し:2007/03/29(木)14:10:12ID:mgI6Vee80
数日後の夜のことだった。あいつが現れた。
飲み会の帰り、少し酔っていて川沿いの道を使ってしまったのだ。

いつもの場所、いつもの服装・・・顔はフードで見えない。ただいつもと違うのは、あいつが自転車に乗っていたこと。
犬を連れて、あいつは橋の向こうからこいできた。

「わん。」

夢中でこいだ。こいだ。でも今度は違う。あいつは自転車に乗っている。振り向くと、目の前にあいつの顔があった。
白い肌、作り物のような肌にぽっかりとあいた穴三つ。

こいでも、こいでも距離は遠のかない。
「わん。わん。わん。」
あいつの連れている犬は、スピードについていけずに引きずられている。

「わん。わん。わん。わん。わん。わん。わん。」

もう酔いなんてとっくに醒めてしまった。
「このまま家に着くと、あいつに居場所がバレる!」そう思って、とっさに道を曲がり、公園の便所へ逃げ込んだ。

洋式便所にカギをかけ、閉じこもると、すぐにあいつがやってきた。ドアの向こうに立っている。
下の隙間から覗くと、丈の合っていないズボン・・・。「つんつるてんだ。」
あいつは、しばらくその場で動かないでいた。

と・・・。
・・・ドンッ
ドアをたたく音。
831:本当にあった怖い名無し:007/03/29(木)14:11:26ID:mgI6Vee80
・・・ドンッ・・・ドンッ・・・ドンッ
いや、叩くというよりかは、何かをドアにぶつけている。
・・・ドンッ・・・ドンッ・・・ドンッ
寒さと恐怖で限界だった。何時間そうしていただろうか。気づくとあいつはいなくなっていた。

便所を出ると、ドアの外側が凹んでいた。そして血と、犬の毛がこびりついている。
あいつがドアにぶつけていたのは、自分の連れていた犬だったのだろう。
でもドアにぶつけている間、犬の鳴き声は聞こえなかった。あいつの「わん。」という声以外は・・・。
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