2016年4月18日月曜日

恐い話 後編

白いワンピース、眉毛の下で揃った前髪。

肩より少し長い黒髪。

年の頃は小学校の低学年だろうか。

顔立ちははっきりと覚えていなかったけれど
『とても優しいカンジがした』そうで。

その女の子は賽銭箱の前で体育座りをして
ぼーっと空を見上げていたそうだ。

彼女はそれに気付いて一緒に上を見る。

鎮守の杜の深い緑の隙間から見える青空と
太陽の照り返しがとても綺麗だった。

ふと、腕に違和感を感じて彼女は視線を降ろす。

そこには彼女の手を両手で握り締めて
じっと見上げている、あの座っていた女の子がいた。

とにかく吸い込まれそうに綺麗な黒い瞳だった。

・・・・・・なんだろう。遊んでほしいのかな?

と彼女は思って、
女の子と同じ目線になるようにしゃがんでから

「なぁに?一緒に遊んでほしいの?」

と聞くとそのこはこくん、と頷いた。

どうせ家に戻っても暇を持て余すだけ。

知り合いだっていないのだ。

時間だけはたっぷりある。

だから彼女はじゃあ一緒に散歩しよっか?
と女の子の手を引いて石段を降りようとするんだけど、
女の子は首を左右に振りながらいやいや、と無言でぐずる。

「・・・・・・神社で遊ぶの?」

こく。首が縦に振られる。

「神様に、怒られない?」

こく。

「そっか。じゃあ、何して遊ぼうか?」

彼女が言うと、
女の子は顔を綻ばせて彼女の手を引っ張りながら
杜の中を色々と案内してくれた。

先程彼女が行くのを止めた所にも、
見落としていた所にも。

その中の一つ、
神社の裏手にひっそりと建っていた古いお堂の中からは
女の子の宝物なんだろうか、鞠やらリリヤンやら、
古めかしい遊び道具が沢山という程ではないにしろ出てきて
彼女を驚かせたのだった。

しかしここは田舎。

彼女の父親がまだ小学生だった頃のおもちゃが
当時のままの値段で今も売られている場所なのだ。

一度母や祖母に教えてもらっていたので
その成果を試すとき、と言わんばかりに
リリヤンを長く作ってやると
女の子は大喜びしたそうだ。

心のどこかが柔らかくなる、
そんな逢瀬だった。

ぽっかりと口のあいた斜面に寝転がって
日向ぼっこもした。

二人だけどかくれんぼもした。

あやとり、手遊び。

はっ、と彼女が我に返ったのは
ポケットに入れっぱなしの携帯がぶるぶると震えた頃だ。

着信を見ると母親から。

通話にするなりいきなり母の怒声。

「何時だと思ってンのよー!どこにいるのアンタ!!」

「いやいや、何時ってまだ散歩出て一時間もたってな・・・・・・・・・」

彼女の言葉はそこで途切れる。

見上げた空、鎮守の杜の隙間から見えるのは
青空ではなく見事な茜色。

照り返しも白からオレンジに変わっていた。

慌てて液晶を見ると------------------ゲッ、6時!?

全然気付かなかった。

8時間ブッ通しで女の子と遊んでいたのだ!

なんでお腹がすかないの!?
と見当違いの事を考えた彼女は
とりあえず親に謝って
すぐ近くにいる事を伝えてから電話を切った。

女の子は鞠を持ったまま彼女を見詰めている。

白いワンピースは太陽に染まって
クリーム色のようになっていた。

「えー・・・・・・と。
ごめんね、そろそろ帰らなくちゃなんなくって。」

こく。

「私と遊んで、楽しかった?」

こく。

「そっか。良かった---------えぇと・・・・・・。
ね、お家どこ?遅くなっちゃったから、送っていくよ?」

ぶんぶん。

首が横に振られる。

彼女は困った。

地元民とは言え、
小さな子を放って帰れるほど厚顔ではない。

いや別に何もしないって、
なんか、そう、親にたかるとか!

全く見当違いの事を言い出す彼女。

それからもう一度女の子に聞いた。

「お家------教えてくれる?
お姉さんと一緒に、かえろ?」

彼女の必死の説得(?)が通じたのか。

女の子はちょっと困った顔をして、
それからすぐ満面の笑みを浮かべ一点を指差した。

そこにあるのは--------------------------------------

「お・・・・・・堂?」

女の子は指差した。

宝物だろう沢山の遊具が出てきた。

一度目の散策で彼女が見つけられなかった。

古びたお堂を。

「じょ、ジョーダン、だよね----------------------------!?」

視線を女の子に戻す。

けれど、女の子は、
ほんの一呼吸前まで横にいた女の子は、
物音一つ立てずに消えてしまったのだ。

彼女は慌てて杜中、神社、お堂の中。

女の子を捜して必死に走り回ったけれど
彼女がいた形跡は全く見つけられず、
『宝物』の詰まっていたお堂の中はがらんどうで、
ただ------------本当に、漫画みたいなんだけどね、
と前置きしてから。

彼女が編んであげた長いリリヤンが一本。

ぽんと置いてあったそうだ。

蝉の声が耳に戻ってきた頃、
私の心の中は少しだけ柔らかくなっていた。

見ていないのに、情景が目に浮かぶ。

その時の日焼けなんだよねー。

少しだけはげかけた腕の皮を剥きながら、
結局あの子は実在したのか、それとも----------。

それはわかんないんだけどね。

ああいう優しいモノが見えるようになったんなら、
ちょっとは腕イソギンチャクに感謝した方がいいのかもね。

いたずらっぽく笑う彼女の腕には、
そのリリヤンで作られたんだろう、
ブレスレットがはめられていた。
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