2014年1月26日日曜日

切ない話中編

まずいことに、
その課題の趣旨は
「相手がこれまでどのように育ってきたか」を
インタビューしてレポートにまとめるというものだった

まずひーちゃんがはーちゃんにインタビューした
三歳からピアノを始めた、小学校から塾に通った
中学は体操部に入った、高校は女子校
はーちゃん、意外とお嬢様だった

ひーちゃんは聞いた
「どうしてお嬢様が、そんなんになっちゃったんだ?」
はーちゃんは少し間をおいて答えた
「良い本や良い音楽と巡り合ったから」

はーちゃんの口からそんな言葉を聞くとは思わず
ひーちゃんはなんか久々につぼに入って笑った
実に久しぶりだった

ひーちゃん的には爆笑だったのだが
はーちゃんには薄ら笑いを浮かべてるようにしか見えなかった
はーちゃんはちょっと不機嫌になった

ところがその本や音楽について聞いてみると、
ひーちゃんの趣味と結構似ていた

ひーちゃんがそれらのCDや本を持っていると言うと、
はーちゃんは「知ってるよ。そこにあるやつでしょ」と言った
「はあ?」って言ってもらえなくてひーちゃんがっかりした

はーちゃんの好きなグールドのCDを流しつつ、
ひーちゃんの人生についての説明が始まった

壮絶過ぎてはーちゃんコメントに困った
もちろん自殺については隠したが

はーちゃんは話題を逸らすことにした

「さっき、電話で『寝てた』って言ったよね?」

「うん。寝てた」

「イオンで寝てたわけ?」

「そういうこと」

はーちゃんますます混乱した


はーちゃんは聞いた、
「君、一日何時間寝てるの?」

「量だけなら、六時間くらい」

「昼夜逆転型なの?」

「特殊な不眠症なんだ」

はーちゃんはひーちゃんの顔を見た
明らかに睡眠不足の顔だった

でこぴんすると二秒遅れて「痛い」と言った
反応速度とかも相当にぶっている
これは重傷だ、とはーちゃんは判断した

互いのインタビューが終わり、二人はレポートを書きはじめた
ひーちゃんが一足先に書き終えた

ひーちゃんは眠気で頭がどうかしているので、
はーちゃんに馴れ馴れしく話しかけた
「早く書けよ、はーちゃん」

「うるさいなー、急いでるよ」

「そっちが終わらないと俺も終わらないんだから」

「てか、はーちゃんって誰だよ」

ひーちゃんはあだ名について説明した
以後、はーちゃんはあんまり「はあ?」って言わなくなった

「あとどれくらいかかる?」とひーちゃんは聞いた

「二十分くらい……」

「寝よ。終わったら容赦なく起こして」

はーちゃんはキーボードを叩く手を止めた
「なんでいっつもそんなに眠いの?」

「人がいるとこでしか寝れないんだよ」

「はあ?」

「信じなくてもいい」、ひーちゃんは笑った

ひーちゃんは熟睡した
はーちゃんはレポートを仕上げたあと、
喉が渇いたので、外の自販機まで行った
赤い夕焼けで、皆が空を見上げていた

冷たいコーヒーを二つ買って戻ると、
さっきまでいた部屋から、ガラスが割れる音がした

「なに、今の?」戻ってきたはーちゃんは聞いた

「ゴキブリがいたから殺そうとしたんだよ」

ひーちゃんは笑って言った
携帯を投げて窓を割ったらしい

「顔、真っ青だよ?」

「ゴキブリ、苦手なんだ」ひーちゃんは答えた

ガラスを集めながら、はーちゃんは理解した

この人、本当に、人がいるとこでしか寝れないんだ
ていうか、寝れない以上の何かがあるんだろうな
マジあたまおかしーんじゃねーの

「……寝れないなら、友達とか、呼べばいいじゃん」

「見りゃ分かるだろ、友達いないんだよ」

そんで家族は一人もいない、か
はーちゃんはひーちゃんの頭を撫でてあげたかった
でも不気味がられるだろうからやめておいた

変なとこ見られちゃったなあ
ひーちゃんはちょっと気まずかった
二人はようやく完成したレポートをメールで送り、
はーちゃんはここにいる理由がなくなった

はーちゃんは立ち上がった
CDをポリーニに換えて戻ってきた

「まだなんかあった?」とひーちゃんが聞くと、

「さっきの話、全部本当だよね?」とはーちゃんは言った

「ゴキブリってのは嘘だ」とひーちゃんは答えた


「ゴキブリってのは嘘だ。俺、ちょっと頭おかしくてさ。
一人で寝ようとすると、眠りについた瞬間にふっと目が覚めて、
全身焼けただれた兄がこっちを見てるっていう幻覚を見るんだ」

「……はあ?」

「マジだよ、はーちゃん。おかしいよな」

ひーちゃんが笑った
ひーちゃんが笑うタイミングが、
なんとなくはーちゃんには分かった気がした

はーちゃんはしばらく黙っていた
音楽のおかげで、沈黙は苦痛ではなかった
窓から差し込む西日が部屋を赤く染めた

はーちゃんはひーちゃんを横からどついた
弱っていたひーちゃんはあっさりソファの上に倒れた

「寝なさい」とはーちゃんは言った

ひーちゃんは頷いて眠った

ひーちゃんはびっくりするほどよく眠った。

ひーちゃんが目を覚ました
うつらうつらしているはーちゃんが横にいた

「おはよう」とひーちゃんは言った

「ん? ……ああ、おはよう」

時計を見て、ひーちゃんは驚いた
「七時間、ずっとここにいたんだ?」

「ん、まあ。本もあったし」
はーちゃんは慌てて本を掲げてそれを証明した
本が逆さまであることに関して
ひーちゃんは特に何も言わなかった

ひーちゃんはお礼を言った
「ありがとう。あと、コーヒーありがとう」

「君、人にちゃんとお礼言えるんだね」
はーちゃんは目を逸らして言った

「言えるよ。君こそ、人に優しくできるんだね」

「別に。あー眠い」

はーちゃんはすぐに眠りだした
ひーちゃんは外に出て、久しぶりに心地よく伸びをした

よく寝たー。
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