2014年1月29日水曜日

不思議な話後編

「元の世界に、戻されるらしいです。
 今日が終わったら、もう私はいなくなります」

「そうか」男は一拍置いて言う、「良かったな」

少女は頷きかけたが、思い直して首を振った。

39 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:00:44.09 ID:mkZ53f+S0

「私、あっちに戻っても、良いことなんて
 ひとつもないんです。ここにいたかったなあ」

「じゃあここに残ればいい。簡単な話だ」

男がそう言うと、少女は微笑む。

「そうですね。残りましょう」

そう言って、男の背中に抱き着く。

40 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:04:49.09 ID:mkZ53f+S0

男の背中に顔を埋めたまま、少女は言う。
「短い間だったけど、ありがとうございます」

「ああ。これからもよろしく」と男は答える。

「まったくもう」と少女が呆れた顔で言う。

「さて、今日は何の日だと思う?」

「お別れの日です」

「違う。俺とお前が出会って、一周年の日だ。
 記念日だ。ワインも用意してある」

「私、未成年ですよ?」

「見りゃ分かる」

「まったくもう」

42 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:11:45.35 ID:mkZ53f+S0

「運命の相手に巡り合えたことに、乾杯」

「否定しませんよ」

「ずいぶん喋るのも上手くなったよな」

「喋りたいって思えば、上達も早いんです」

「そうだな。俺も、ずいぶん語彙が増えたよ」

「豚の糞を喉に詰まらせてくたばりやがれ」

「いえいえ、こちらこそ」

43 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:16:52.18 ID:mkZ53f+S0

「もう一年前になるんですか。初めて出会ったのは」

「ああ。まだ俺が二十代だったころだ」

「あなたが見つけてくれてなかったら、私、今頃灰燼に帰してましたね」

「言葉通りな」

「灰を吸い出してくれたのは助かったんですけど、
 無意識のうちにファーストキスを済まされたのは悔しいです」

「ああいうのはキスと言わない。子供の頃に遊びでするのと一緒だ」

「赤ん坊の頃から、遊びでキスしたことなんて一度もありませんよ」

「お堅いんだな」

「ええ。死守してきたんです」

「そうか。悪いことをしたな」

「まったくもう」少女は嬉しそうに椅子を揺らす。

44 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:19:51.98 ID:mkZ53f+S0

「さて」男は言う、「ここで自己紹介と行こう」。

「そうですね」少女はうなずく、
「お互いのことをよく知るのは、
 付き合っていく上で大事なことですから」。

それから二人は自己紹介を始めた。

46 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:26:18.86 ID:mkZ53f+S0

互いの素上について話しているうちに、
時間は驚くほど早く過ぎていく。
なぜか? 書く側の体力が尽きてきたからだ。

少女が窓の外の時計台を見て、
書き手にとって都合の良いことを言う。
「残り、十分を切りましたね」

「らしいな」

「何か、最後に、言っておくことあります?」

「これからもよろしく」

「もう、そろそろそんなこと言ってる場合じゃないですよ。
 いなくなる私に、なにか優しい言葉をかけてくださいよ」

「お前のファーストキスの相手が俺でよかったよ、みたいな?」

「"みたいな"はいりません」

47 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:34:21.91 ID:mkZ53f+S0

男は小さく溜息をつくと、ぼそっと言う。

「あんまり褒められたことじゃないけど、
 俺はお前のことが好きだったよ。
 何言ってるんだって思われるかもしれないが、
 結婚するならお前みたいなやつが良かった」

「あんまり褒められたことじゃないですね」

「だろう? だから言わないでいたんだが」

「いえ、でも、最後に言ってもらえて良かったです。
 ていうか、それがききたかったんです」

「そっか。俺もこれが言いたかったんだよ」

49 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:39:17.52 ID:mkZ53f+S0

どちらともなく差し出した手を繋ぎ、
二人は最後の十分間を過ごした。

最後に別れの言葉を言おうとして
開かれた男の口は、少女の唇で塞がれる。
かつて男が少女にやった方法で、
男の肺に溜まった灰が、吸い出されていく。

全てを吸い出し終えたところで、少女は口をはなし、
「さよなら。幸せでした」と言って、
男の返事をきく間もなく、姿を消した。

50 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします: 2012/03/25(日) 22:41:36.97 ID:mkZ53f+S0

時計台が十二時を告げる鐘を鳴らす。
男は呆然とそれを眺めていた。

不意を突かれて、抱きしめ返す暇さえ与えられなかった。
最後の最後に、してやられたな、と男は思う。

男は立ち上がって、綺麗な方の椅子に座り、
異様に長く感じる鐘の音に、耳を澄ましていた。
と言う話を喫煙室にいるときに考えました。以上!
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