2015年12月10日木曜日

不思議な話後編

水曜日。通勤帰りに、今度は俺からメールした。
「ちゃんと寝たか?その他もろもろ、あ〜だこ〜だ・・・」
すると
「昨日はちゃんと寝たよ!今から帰って続きが楽しみ」
と返事が返ってきた。そして夜の11時くらいだったか。俺がPS2に夢中になっていると、写メールが来た。

「鷹が出来たよ〜!ほんとリアル。これ造った人マジ天才じゃない?」
写メールを開くと、翼を広げた鷹の形をしたリンフォンが移してあった。
素人の俺から見ても精巧な造りだ。今にも羽ばたきそうな鷹がそこにいた。

もちろん、玩具だしある程度は凸凹しているのだが。それでも良く出来ていた。
「スゲー、後は魚のみじゃん。でも夢中になりすぎずにゆっくり造れよな〜」
と返信し、やがて眠った。

木曜の夜。俺が風呂を上がると、携帯が鳴った。彼女だ。
「ユウくん、さっき電話した?」
「いいや。どうした?」
「5分ほど前から、30秒感覚くらいで着信くるの。
 通話押しても、何か街の雑踏のザワザワみたいな、大勢の話し声みたいなのが聞こえて、すぐ切れるの。
 着信見たら、普通(番号表示される)か(非通知)か(公衆)とか出るよね?
 でもその着信見たら(彼方(かなた))って出るの。こんなの登録もしてないのに。気持ち悪くて・・」
「そうか…そっち行ったほうがいいか?」
「いや、今日は電源切って寝る」
「そっか、ま、何かの混線じゃない?あぁ、所でリンフォンどうなった?魚は」
「あぁ、あれもうすぐ出来るよ、終わったらユウくんにも貸してあげようか?」
「うん、楽しみにしてるよ」

金曜日。奇妙な電話の事も気になった俺は、彼女に電話して、家に行く事になった。
リンフォンはほぼ魚の形をしており、あとは背びれや尾びれを付け足すと、完成という風に見えた。

「昼にまた変な電話があったって?」
「うん。昼休みにパン食べてたら携帯がなって、今度は普通に(非通知)だったんで出たの。それで通話押してみると、『出して』って大勢の男女の声が聞こえて、それで切れた」
「やっぱ混線かイタズラかなぁ?明日ドコモに一緒に行ってみる?」
「そうだね、そうしようか」

その後、「リンフォンってほんと凄い玩具だよな」って話をしながら魚を完成させるために色々いじくってたが、なかなか尾びれと背びれの出し方が分からない。
「やっぱり最後の最後だから難しくしてんのかなぁ」とか言い合いながら、四苦八苦していた。
やがて眠くなってきたので、次の日が土曜だし、着替えも持ってきた俺は彼女の家に泊まる事にした。

だけどその夜、嫌な夢を見た。
暗い谷底から、大勢の裸の男女が這い登ってくる。俺は必死に崖を登って逃げる。
「後少し、後少しで頂上だ。助かる・・・」頂上に手をかけたその時、女に足を捕まれた。
「連 れ て っ て よ ぉ ! ! 」
汗だくで目覚めた。まだ午前5時過ぎだった。再び眠れそうになかった俺は、ボーっとしながら、彼女が置きだすまで布団に寝転がっていた。

土曜日。携帯ショップに行ったが大した原因は分からずじまいだった。
そして、話の流れで気分転換に「占いでもしてもらおうか」って事になった。

市内でも「当たる」と有名な「猫おばさん」と呼ばれる占いのおばさんがいる。
自宅に何匹も猫を飼っており、占いも自宅でするのだ。ところが予約がいるらしく、電話すると、運よく翌日の日曜にアポが取れた。
その日は適当に買い物などして、外泊した。

日曜日。昼過ぎに猫おばさんの家についた。チャイムを押す。
「はい」
「予約した○○ですが」
「開いてます、どうぞ」

玄関を開けると、廊下に猫がいた。俺たちを見ると、ギャッと威嚇をし、奥へ逃げていった。
廊下を進むと、洋間に猫おばさんがいた。文字通り猫に囲まれている。
俺たちが入った瞬間、一斉に「ギャーォ!」と親の敵でも見たような声で威嚇し、散り散りに逃げていった。

流石に感じが悪い。彼女と困ったように顔を見合わせていると、
「すみませんが、帰って下さい」
と猫おばさんがいった。ちょっとムッとした俺は、どういう事か聞くと、
「私が猫をたくさん飼ってるのはね、そういうモノに敏感に反応してるからです。
 猫たちがね、占って良い人と悪い人を選り分けてくれてるんですよ。こんな反応をしたのは始めてです」

俺は何故か閃くものがあって、彼女への妙な電話、俺の見た悪夢をおばさんに話した。
すると、
「彼女さんの後ろに・・動物のオブジェの様な物が見えます。今すぐ捨てなさい」
と渋々おばさんは答えた。
「それがどうしたんですか?」
と聞くと
「お願いですから帰って下さい。それ以上は言いたくもないし見たくもありません」
とそっぽを向いた。

彼女も顔が蒼白になってきている。
俺が執拗に食い下がり、
「あれは何なんですか?呪われてるとか、良くアンティークにありがちなヤツですか?」
おばさんが答えるまで、何度も何度も聞き続けた。

するとおばさんは立ち上がり、
「あれは凝縮された極小サイズの地獄です!!地獄の門です、捨てなさい!!帰りなさい!!」
「あのお金は・・・」
「入  り  ま  せ  ん  !  !」
この時の絶叫したおばさんの顔が、何より怖かった。

その日彼女の家に帰った俺たちは、すぐさまリンフォンと黄ばんだ説明書を新聞紙に包み、ガムテープでぐるぐる巻きにして、ゴミ置き場に投げ捨てた。
やがてゴミは回収され、それ以来これといった怪異は起きていない。
数週間後、彼女の家に行った時、アナグラム好きでもある彼女が、紙とペンを持ち、こういい始めた。

「あの、リンフォンってRINFONEの綴りだよね。偶然と言うか、こじ付けかもしれないけど、これを並べ替えるとINFERNO(地獄)とも読めるんだけど・・・」
「・・ハハハ、まさか偶然偶然」
「魚、完成してたら一体どうなってたんだろうね・・・」
「ハハハ・・」

俺は乾いた笑いしか出来なかった。あれがゴミ処理場で処分されていること、そして2つ目がないことを、俺は無意識に祈っていた。
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