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記憶を取り戻すために世界中を旅した若者
若者が目を覚ました場所はスラムの裏路地だった。
彼はこの風景に見覚えがなかった。それどころか自分の名前さえ知らなかった。
しかし一つだけ確かな知識があった。
(私の記憶は世界中を歩き回ることで戻るだろう)
若者は労働と物乞いを繰り返し、世界中を歩き回った。
その旅は決して楽なものではなかった。
彼の身なりや容姿のみすぼらしさもあり、人々は彼を冷たい目で見た。
野宿して起きてみれば、荷物がなくなる。
汗水を流して稼いだ金で、少しいい宿に泊まると、ナイフを持った男に脅されてあり金を全て奪われる。
こんなことが日常茶飯事だった。
「儲け話があるから」と言われてついて行けば詐欺にあった。一晩愛を暖めた女は、財布とともに消えてしまった。
世界は彼にとって冷た過ぎた。
ある時などは、チンピラ集団に絡まれて、川に流され死にそうになった。
それでも若者は歩き続けた。
5年の後、彼はスラムに戻ってきた。
裏路地に入ろうとしたところで、黒人の子供に出会った。
少年は腹から血を流していた。
「助けてくれ」と呻く少年を、若者は手当をしてやった。
話を聞くと少年は親から捨てられたらしい。
生きるためにスラムのチンピラ集団に入ったが、死体の始末やスリなどをやらされ、兄貴分には殴られ、最後には抗争
の囮として捨てられ、今に至るそうだ。
若者は少年に語り始めた。
「神様がいるなら、こんな酷い世界は消してしまうべきだと思わないか?
人々は騙し合い、他人から奪うことを少しも疑わず、暴力を振るうことを躊躇わない。」
その事実こそが、若者が自らの記憶を消してまでも確かめたかったことだった。
自分の目で、耳で、体で、彼は世界の酷さを知った。
そして今こそ決断の時だと思った。
しかし少年はキョトンとした戸惑いを浮かべ、こう返した。
「世界が消えたら、僕は死んでしまいます」
「こんな世界に生きていても仕方ないと思わないのかい?」
「おじさんは生きたいと思わないの?」
質問に質問で返された若者の頭には、ある記憶が蘇った。
チンピラに川に流されたとき、彼は確かに《生きたい》と強く願った。
どれだけ冷たい世界でも、人は生きたいと願うことを若者は知っていた。
若者には何が正しいのか分からなくなった。
人は幸せになれなくても生きたいと願ってしまう。
人間という生物がどれだけ醜いとしても、それを消す必要が、意味が、どこにあるのか。全く分からなくなった。
彼は少年にさよならを告げて、裏路地へと消えてしまった。
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